思わず笑ってしまいそうになった。

互いに思うところは色々とあるだろうが、これからの旅に於いては大切な仲間となる相手だ。
旅立つ前に心ゆくまで話し合っておきたかった。
共に戦う相手であり、たった一人の同族でもある男。
人として、仲間として、認められる相手であって欲しいと思う。
ならば、旅の間は私情を挟んではいけない。
味方となる相手を疑っては戦う事など出来はしない。
あの男を罵るのも、殴るのも、この旅が終わってからでいい。
一晩かけてそう結論付け、夜明けと共に彼を探した。

そうして、半刻ほど探した相手は…
何とも情けない格好で樹上から転げ落ちてきた。

私を見て幾度か瞬きをし、気まずげに眉を寄せ、あらぬ方向へ目を逸らすと、
ちょっと足を滑らせて…だの、別に寝ぼけていた訳では…だのとボソボソ呟き始めた。
呆然としながら見ていると、あなたがここに来たのに気がついて…などと言い出す。
あなたと少し話がしたくて…と言いながら伺うように見上げてくる相手は、擦り傷だらけで 枝葉まみれだった。

北方野伏の首領ともあろう男が…


思わず笑ってしまいそうになった。

旅立つ前に話をしておきたかったのは、どうやらお互い様だったようだ。
まずは共に朝食を取って、その後は剣の手合わせをしよう。
話し合いよりも先に、相手の長所を認める所から始めよう。

そう思いながら手を差し伸べると、驚いた表情をする。 それでもすぐにその手を取り、どこか嬉しそうに立ち上がる。
枝葉まみれの服を払ってやると、何故か盛大にホコリがたった。

……朝食の前に湯浴みだな。

そう言うと突然、引き攣った顔をして逃げようとした。
間一髪で首根っこを捕まえる事に成功すると。問答無用で浴室まで連行する。
意外と手間のかかる男だと思いながら、この状況を楽しんでいる自分に気が付いた。

これなら旅の道行きも心配はないだろう。
この男と上手くやれるなら、きっと他種族の者達とも上手くやっていけるに違いない。
久方ぶりにとても楽しい気分になって、 往生際悪くわめく男を連れながら上機嫌で浴室までの道を辿って行った。






裂け谷での一日。秘密会議の翌日です。