「今日はこのあたりで野営するかの。」 ガンダルフが言った言葉に、ホビット達はほっと安堵の息をついた。彼らの足はもうぱんぱんで疲れきっていたからだ。 それぞれめいめいに荷物を降ろし、食事の準備やら狩りの支度やらをやり始めた。 ガンダルフはパイプを取り出し、一服し始めた。メリーとピピンはキノコを探してくると言って走り出し、その後を危ないからとボロミアが慌ててついていく。サムは鍋やフライパンを用意し始め、フロドが手伝うからと言うのを押し留めて無理やり休ませていた。レゴラスは狩りをしてくるとギムリを引っ張って連れて行き、アラゴルンは今後の進路を地図を広げて悩み始めた。 例えどんなに過酷な旅でも、そこにはまだ微笑ましい状況が残っていた。…今のところは。 「あーもうお腹いっぱいだあ!」 ピピンがめいっぱい伸びをしてそのまま後ろに倒れこんだ。彼らは焚き火を囲んで、久しぶりの温かい食事を満喫していた。メリーとピピンが取ってきたキノコや野草と、レゴラスとギムリが狩った兎でサムが腕によりをかけてシチューを作ったのだ。滅多に無いごちそうに皆めいめい満足していた。 「じゃあもう休んだ方がいい。明日も早いのだからな。見張りはいつものとおりに順番で行おう。」 「えー折角焚き火ができたのにもう寝るのー?」 もっとおしゃべりしていたいのにとアラゴルンに向かって頬を膨らませるピピンに、ボロミアが優しく肩を叩いた。 「今日の疲れを明日に持ちこすと後々大変ですぞ?私はあなたを小脇に抱えてオークと戦うのはご免こうむりたいですからな。」 「あ、じゃあこういうのはどうかな?オークが出てきたらピピンに剣を持たせて『ホビットばくだーん!』って言って投げるのは」 「もう寝ようねメリー明日は早いのだから!!!」 笑顔でボロミアに進言してきたレゴラスの言葉に、ピピンは顔を真っ青にして即座に毛布に頭を突っ込んだ。このエルフならやりかねない!と。もちろん反対するものは誰一人としていなかった。ホビット達はものすごい勢いで寝る準備を始めた。 それを見ながら笑顔で不思議がるレゴラスに、他の者達は苦笑するしかなかったのであった。 わずかにはぜる焚き火に、ふとピピンは目を覚ました。周りを見回すとみんな毛布に包まってすやすやと眠っている。 (あれ…?ボロミアさんと…馳夫さんは…?) 見回りをしているのだろうか。ボロミアとアラゴルンの姿がどこにも見えなかった。 しかし、いつもなら起きているのは大抵一人なので、少し不思議に思ったピピンは隣りに寝ているメリーを揺らした。 「ねえメリー、メリーってば。」 「ん〜……なんだよピピン。まだ暗いじゃないか〜。」 目をこすって文句を言うメリーに、二人がいないことを教えた。しかし「今後のことについて見張りしながら話し合ってんじゃないの?」と取り合ってくれない。 その時ふと、どこからか声が聞こえた。 「あれ?どっかから話し声が聞こえない?ほらあっちから。」 「…ああほんとだ…やっぱりあの二人みたいだね。」 「ねえ、ちょっと行ってみようよ、もしかしたらおもしろい話が聞けるかもしれないよ?」 「ええ?盗み聞きしようっての?」 「嫌?」 「まさか!よし、行ってみよう!」 悪戯には目が無い二人。メリーもその提案に目をパッチリ開いてピピンと一緒に声のする方へ忍び寄っていった。 「………だから……」 「……でも…………」 ばれないように歩伏前進で進むホビット達の耳に、少しずつ目標二人の声が聞こえてきた。ガンダルフが見たら「どうしてその集中力を敵との遭遇に使わない?」と頭を抱えそうなほど慎重に近くの草むらに身を隠す。 耳をエルフ並に凝らして様子をうかがった。すると……… 「アラゴルン……もうやめろ。私に構わないでくれ…」 「何を言っているんだボロミア、ここまで来てやめるわけにはいかないだろう?」 「……ッツ…」 「ああすまない、痛かったか?なるべく痛まないようにしてるのだが。」 「…いや…大丈夫だ…このくらいなんでもない…フ、あなたは誰にでも優しいのだな。」 「皮肉のようにも聞こえるが、ここは褒め言葉ととっておこう。」 「……………!!!!!!?」×2 ピピンとメリーは文字通りさーっと青ざめた。これはまずい。この会話はものすごく非常にまずい。一番いてはいけない場所にいてしまったと二人は口をあんぐりと開けて顔を見合わせた。好奇心は身を滅ぼすとはまさにこのこと。どうしよう、動くに動けなくなってまさに絶対絶命に陥ってしまった。 (どどどどどどうしようメリー!あの二人何やってんだよう〜!) (それを俺に聞くな〜!もうお前になんかついてくるんじゃなかった〜!) (そんなこと言うなよ〜!ねえ戻った方がいいかなあ?) (バカ!今から戻ってもし気付かれたら俺たちなにされるかわかったもんじゃないんだぞ!) 声を出すとまずいので、二人は長年培ったアイコンタクトとジェスチャーで会話をする。こんな時の彼らはいつも以上にコンビネーションばっちりである。本人達は全く嬉しくないが。 (じゃ、じゃあどうしよう?これ以上ここにいたら…なんか僕見ちゃいけないものを見ちゃいそうな気がするよ〜!) (俺だってやだ!ああごめんよ父さん母さん、ブランディバック家の血筋は俺で終わりのようです…) (メリー!メリーってば!僕一人残して旅立つなよ――!) 「やあホビットって絶体絶命になると心の声で会話できるんだね、すごいや。」 (わああああ!!!)×2 突然、この切羽詰った雰囲気に関係なく入って来たのんびりした言葉に、思わずメリーとピピンは大声で叫びそうになり慌ててお互いの口をふさいだ。 二人の後ろには、いつの間に来たのかレゴラスがにこにこしながらちょこんとしゃがみ込んでいたのだ。 (レレレレレゴラス?だだだだ駄目だよ大きい声だしちゃあ!) 「どちらかというと君達のリアクションの方が大きい音出してると思うんだけどね」 (ととととにかくあの二人に気付かれたらエライことになるから静かにして!) するとレゴラスはふうんと首を伸ばして人間二人がいるであろう茂みに目をやった。エルフのことだから、声だけでなく姿も見えるのだろう、「ああなるほど。」と頷いて再びホビット達に向かって微笑む。 「つまり君達は覗き見してるってわけだね。好奇心旺盛なホビットさん達v」 (だってまさかこんな状況とは思ってもみなかったんだもの…ねえレゴラスどうしよう?) 泣きそうになりながら笑顔のエルフに助けを求める。最も、彼らにとってそれが間違いの元であったのだが。そうこうしている間も茂みの向こう側では変わらず会話が続いていた。 「おや汗をかいているぞ執政の方。君は結構感情がすぐ表に出る性質なのだな。」 「前言撤回だ。やはりあなたは優しくないな…ッツ・・」 「動くな。動くと余計に…奥へ食い込むぞ。」 「うーん、これはなかなか興味深い眺めだね。おや、ボロミアが逃げようとしている。その手をアラゴルンがつかんで離そうとしてないな。あはは、執政の息子が未来の王様を睨んでいるよ涙目で。うわあアラゴルン少し笑ってるよ結構ひどい男だね彼は。…あれ、メリー?ピピン?」 レゴラスが気付いた時には既に遅く、哀れなホビット二人は白く固まったまま気絶していた。彼らの周りには風がひゅるりらと吹き荒れていた。 「だから違うのだ聞いてくれメリーピピン!君達の考えていることは誤解だ!全くのでたらめだ!」 「うわーんボロミアさんの不潔―――!嫌いだ―――!!!」 「ま、待ってくれピピン!ああメリー、君なら解かってくれるだろう!?」 「ボロミアさんってそういう人だったんだ……信じていたのに……」 「誤解だ―――!!!!」 泣きながら走っていくピピンを追いかけていくボロミア。それをわけがわからずオロオロと見ているフロドとサムの後ろで、なんとなく感づいたのかアラゴルンはレゴラスを睨んだ。 「レゴラス…お前、いらぬこと何か吹き込んだろう?」 「別に。ただ僕は昨夜の君達二人の茂みでの行為を説明しただけだよ?」 「じゃあ私はただ彼の手に刺さった棘を抜いてやってただけなのに、何故あの二人はおかしな誤解をしているのか教えてもらいたいものだな?」 「ちょっと抽象的に言ったかな?早とちりのホビットさん達には通じなかったかもね。」 「……」 アラゴルンは頭を抱え込んだ。このエルフめ、余計な問題を起こして引っ掻き回して、と。 そんなことにはこれっぽっちも気にかけず、鼻歌を歌いながら歩くレゴラスを見て、ギムリは斧を担ぎながら密かにボロミアに同情した。哀れな彼が誤解を解くにはだいぶ時間がかかるだろう。 それぞれに思惑する旅の仲間達を見て、ガンダルフは一人パイプをくゆらしていた。 旅はまだまだ長くなりそうだな、と。 ◇ 終 ◇ わ〜vこれはレゴラスと愉快な仲間達アラボロ編ですね!じゃあ やっぱりボロアラ編とかもあったり…するんでしょうか(ワクワクv) 私が指輪の魔力に囚われたのはこの方のおかげでございます♪ なのに小説強奪してごめんなさい(笑)でも本当に嬉しいです〜v いつも本当にありがとう vあなたのおかげで今 毎日が幸せですv |