好きだと言ったのは、確かに私の方だった。 心の中で燻り続けるこの感情に決着を付けてしまいたくて、今夜、気持ちを告げた。……が、まさかその場で手を出されるとは思ってもいなかった。 「すまない……忘れてくれ」 そう言って立ち去ろうとした私の腕を、あの男はそのやたらと大きな手で、がっちりと掴んだ。…この時点で私の計画は五分位狂ってきた。 「…待てよ」 低い、真剣な声で囁かれると、それだけで心が揺れる。このままでは決心が鈍ってしまう。早急に決着を付ける為に私はその手を思いっきり振り払った。 「離せっっ!!」 がっちり。 渾身の力で振り払ったその手はびくともしなかった。馬鹿力め。……この時点で計画は二割位狂ってしまった。 「俺の気持ちを聞かねぇつもりか?」 聞きたくないに決まっている!! 自分でさえ、この感情を不自然だと思っているのだ。他の者が聞いたら「変態」だの「衆道」だの位は言われるだろう。 たとえ自覚していたとしても、想う相手の口からそんな言葉を直接聞きたくはなかった。 「……離せ」 「嫌だね」 嫌だねじゃない、離せバカ。真っ直ぐに私の顔を見るのをやめろ。そのようないらぬ気遣いが却って辛い。 しかし、私の腕をガッチリと掴んだ手は微動だにしない。…痛い。心も痛いが、腕はもっと痛い。この馬鹿力のお陰で、計画は四割五分程狂っている。いかん、これ以上狂っては修正が効かなくなってしまう。それは………困る。諦めが付かなくなったら自分が惨めになるだけだ。 「離して…くれ」 その心の底からの私の声を、奴はあっさりとはねつけた。 「俺の気持ちを聞くまでは離さねぇよ」 そんな事、嫌に決まっているだろうが!! 未練がましいとは思うが、否定の言葉を聞きたくはない。今すぐにこの場を逃げ出して何も考えずに倒れるまで仕事に没頭し、死んだように眠ってしまえればどれ程楽だろう。そのまま、この気持ちを忘れてしまえればどれ程…… なにやら、もう十分に惨めな気がしてきた。 「俺は武成王として、お前の横に立つ日を目標にしてきた。だから今の自分には誇りを持ってるし、仕事に私情を挟むのは好きじゃねぇ。第一そんな事お前が許さないだろう。だから俺は今まで…」 「………もういい」 わかったから、もうやめてくれ。 「聞仲…」 「聞きたくない。……邪魔をしたな、帰らせてもらう」 中途半端な優しさというのは最悪だ。 私は想いを告げたらさっさと帰り、このような気持ちはきれいさっぱり忘れて、今まで通りの「太師」に戻るつもりだった。一人でいるのは慣れていたから… なのにこれでは、まるっきり逆効果ではないか!!私の計画はボロボロだ。一晩かけてようやくたどり着いた結論だったというのに。……何でこんなに融通の利かないバカ男に惚れてしまったのだ。この私ともあろうものが! 「……わかった」 ようやくその言葉を聞いた時『終わった』と思った。これで諦めが付く筈だ。たとえ今は苦しくとも、いずれ時が解決してくれる。時間ならばいくらでもあるのだから。 ……と、無理矢理自分を納得させた途端。 口付けられていた。 あまりの衝撃に呆然としている間にきつく抱きしめられ、更に深い口付けを与えられる。 押し入ってくる舌のざらついた感触に頭の芯がクラリとする。絡み取られ強く吸われると意識が溶けてしまいそうになる。 「っ……ん」 逃れようと身を捩っても叶わず、貪るように求められ、思考が乱されていく。身体中を駆け巡る熱さに魂まで溶かされそうになった頃、嵐のような口付けからようやく開放された。 「…飛……虎…っ」 吐息と共に漏れたその言葉は、ぞっとするほど艶かしかった。……と、後に言われた。 「聞かねぇってんなら分からせてやるぜ。お前の、その身体で…」 そう言って、奴はその場で私を組み敷いた。………板の間だった。 こうして私の『玉砕計画』は跡形も無く崩れ去った。 ◇◇終◇◇ 太師という立場上、自分の気持ちに素直になれない聞仲さまです(笑) それにしても飛虎…愛されてるなぁ。私の書く話っていつも飛虎が幸せで聞仲さまが不幸になってるのかも…何故だろう? でも必死に考えた計画は崩れ去ったけど、結果オーライという事で今回はハッピーエンド…かな(笑) |