<黄飛虎の場合>


最近、どうも俺はおかしい。
妙にあいつが気になって仕方無い。「あいつ」は俺の幼馴染みの聞仲のことだ。
金の髪に白い肌、青い目をしていてお人形みたいに可愛い。けど、あいつは男だ。
気が強くて、ちょっと俺より年上だからって俺をアゴで使うし態度もでかい。力では俺の方が強いし、背だって俺の方が頭二つ分は大きいのが、剣をとらせると身軽な体を使っていつも負けてしまう。
口だって超毒舌で目つきも恐いし、かなり男らしい。


可愛さで考えればもう一人の年下の幼馴染みの賈氏の方が可愛い。
あいつの方が長い付き合いだし、長い黒髪も綺麗だ。言葉数は多く無いし大人しいけれど、陰気な感じもしないし実はしっかりしている。料理も得意であいつの作る菓子は凄く旨い。
俺が悪戯が見つかって怒られているとさり気なく助け舟を出してくれるし、告げ口もしない。屋敷を抜け出す時に裏口に人がいない時間をこっそり教えてくれるし、良い奴だ。
それに俺の背丈が伸びて大人の仲間入りし始めた頃から、あいつは子供っぽさが消えて急に綺麗になった。
髪はつややかに光ってつい触りたくなる様な感じだし、大きな瞳はちょっと潤んでいてガキの俺にさえ色っぽいと分かる。些細な仕種も屋敷に入るどの女よりも優雅だ。
俺達は親が決めて婚約者になったせいか俺を男として接するようになった。
ちょっとした事だけどいつも俺を立ててくれて、俺の優越感を少しくすぐる。その態度は厭味じゃなくて良い。幼馴染みってことを差し引いてもそれでもあいつは凄く良いヤツで将来は絶対良い女になると思う。
それにあいつの目とか話し方を見ているとどうやら俺に惚れているらしい。


けど、なあ…。


賈氏が俺の事好きで、俺もまんざらじゃ無いし嬉しいと思う。
だけど聞仲がちょっと笑いながら「馬鹿だな、お前は」なんて軽く言われる時の方が嬉しく感じまう。
賈氏が口元に手を当ててにっこり微笑む時より、聞仲が俺に剣術で勝って不敵に笑った時の方が胸がどきりとしちまう。
賈氏や弟達と庭で菓子を食べている時は心が落ち着く。
けど聞仲と修練場で剣を握っている時は心がもっとわくわくする。…あ、これは今俺が鍛える事に夢中になっているからかな。

でも他にも、
賈氏のたまにちらりと見えるうなじより、聞仲の見なれているはずの首筋や、
ふっくらした赤い唇より、薄いすぐに噛み締められている唇や、
小さくて繊細な手より、細いのに馬力はかなりある長い手や、
柔らかな腰より、骨がしっかり見える腰や、
優しい穏やかな高い声より、きついぶっきらぼうな声変わりした声に、
俺の胸はいつもドキドキしちまうんだよな…。


やっぱりさ。
それってさぁ、つまりはそーゆー事なのかな。


こんど親父に相談してみようかな。
「何か悩む事があったら気兼ねなく相談しろ。もうお前も一人前になろうとしているのだからな」って言ってたし。
けど、こんなコト相談して大丈夫かな?

親父に理解してもらえるかな。何となく嫌な予感がするんだよな…。





<聞仲の場合>


最近、私は何か変だ。
何故だかあいつの事が気になってしまう。「あいつ」とは黄飛虎の事だ。
茶金の髪に日に焼けた健康そうな肌、灰色の目をしていて結構整った雑作をしている。
けど、あいつは列記とした男だ。
ずうずうしくて、私よりも年下の癖にすぐに兄貴風を吹かせたがる。力と背丈では私の方が負けるが、剣術では私の方が強いし、学問だって私の方が優秀だ。
口は悪いし、悪戯ばかりしてどう仕様も無い馬鹿だ。


尊敬する事だけで考えればもう一人の年上の幼馴染みの朱氏の方が尊敬できる。
彼女の方が長い付き合いだし、人格が優れている。溌溂として武術も男並みだが、女性としてのたしなみを持っていて実は繊細な人だ。字が綺麗で私に上手に教えてくれる。
私が腐れ縁の趙公明に絡まれていると追い払ってくれるし、薔薇の花束も突き返してくれる。分からない事もこっそり教えてくれるし、本当に良い人だ。
それに私の背丈が伸びて大人の仲間入りをし始めた頃から、彼女は女性らしさが増して綺麗になった。
背中の辺りがすらりとしてほっそりとした感じになったし、大きな茶色い目は知性をたたえて子供の私にも分かる程艶やかになった。些細な動作も宮中で見かける女官よりも洗練されている。
私が彼女から一本取れるようになったせいか私を男として接してくれるようになった。
小さな事では有るが私の立場も尊重してくれて、私の優越感を少し満たしてくれる。その様子はけっして厭味ではない。幼馴染みである事を差し引いてもやはり彼女は素晴らしい人で、将来は必ず屈指の女傑になると思う。
それに彼女の瞳や話し方を見ると、どうやら私に対して多少なりとも恋愛感情を持ってくれているらしい。


しかし、それなのに。


朱氏が私に好意を持っていて、私も結構嬉しいし嬉しいと思う。
だけれど飛虎が八重歯を見せながら「何やってるんだよ。結構おっちょこちょいだな」等と明るく言っている時の方が嬉しいと思ってしまう。
朱氏が達筆で書きおえてにっこり微笑む時より、飛虎が久しぶりに私に剣術で勝ってにやりと笑った時のほうが胸の動悸が早くなってしまう。
朱氏や義父と書物について話している時は心が落ち着く。
けれど飛虎と修練場で剣を握っている時は心がもっとわくわくする。…ああ。これは今私が武術の向上に夢中になっているからだろう。

だがその他にも、
朱氏の甲冑を脱ぐ時に見えてしまう日に焼けていない白い背中よりも、飛虎の見なれたはずの成人の様な背中や、
華のあるえくぼより、人を馬鹿にした様な片方だけ吊り上げて笑う頬や、
私の髪を優しく梳いてくれる細い手よりも、乱暴に髪を乱す無骨な大きな手や、
ふくよかな丸い胸よりも、鍛えられて筋肉のついた逞しい胸や、
耳障りの良い包み込む様な声より、言葉使いの悪いやたらに大きな声に、
私の心臓はいつも心拍数は上がってしまうのだ…。


やはり。
その状態は、いわゆるそう言う事なのだろうか。


折を見て義父に相談してみようか。
「困った事や悩みごとは何でも相談するがよい。血は繋がらなくともお前は私の息子なのだからな」と言ってくれたのだから。
けれど、この様な事を打ち明けても大丈夫だろうか?

彼は理解して下さるだろうか。何となくだが、言ってはいけない様な気がする…。


<了>


◇◇終◇◇



6969hitの流様のリクエストで「幼馴染みの二人」というお題で書かせてもらいました。 半パラレルで飛虎と聞仲は同じ時代に人間として生きている幼馴染み、という設定です。飛虎は12才、聞仲は14才くらいで書いてみました。賈氏は11才、朱氏は18才ぐらいかな?特には年齢は意識していませんが。
飛虎は原作そのままで、聞仲は通天義父さんと暮らしているという設定で、女の子の幼馴染みとは物心着いた時からの仲で、男の子の幼馴染みとは5、6年くらい前に知り合ったということにしています。

恋もまだ分からないウブな二人を書いてみました。元ネタはあるマンガから頂きました。そちらではお父さんにお風呂に入りながら「ねえ、父上。僕って変かなぁ」なんて相談していました(笑)。10年以上前の漫画だから知っている人いるかな?中学生の時に好きだったので使ってみました。


◇流より一言◇
龍騰虎躍・裏(元HHH)さまで6969hitを踏んだ時に書いて頂いたお話です。 幼馴染…いいですよねv
二人の微妙な気持ちと、女の子の幼馴染への好意との対比が読んでて楽しいのです。 今回サイトを開くに当たって、こちらに掲載させて頂ける事になりました♪
HUI(Kein)様、初々しくも可愛い二人のお話をありがとうございました。幸せです〜vv
でもこの後がものすごく気になる…(笑)



前のページへ 小説置場へ 次のページへ
TOPへ