「やっぱり露天はいいなぁ」 風光明媚であることは大前提、それに酒と美人が揃っていれば尚のこと。 見上げた空は茜色、藍色へと変わっていくグラデーション。鳥影が群れをなして視界の端を横切っていく。 「もう呑んでるのか?」 その声に振り返る。心の中で口笛を吹いた。 先程まで着ていた浴衣を脱ぎ、ほぼ裸体で聞仲が立っていた。 温泉であるから当然と言えば当然なのだが、自然の景色に溶け込んだ恋人のそんな姿に飛虎の下半身が疼いた。 「な、なんだっ。じろじろ見るなっ」 飛虎の視線の意味に気づいたのか、まだ湯にも浸かっていないのに聞仲の白い肌が朱に染まる。 「早く来いよ、冷えるだろ」 ずっと見つめていたい気持ちを抑えて、飛虎は敢えて視線を逸らす。聞仲に背を向けて、湯面に浮かべた盆の徳利を取る。 「うめぇ」 すっきりとした味わいの日本酒。飛虎は酒を味わっている振りをしながら、背後の聞仲に神経を集中していた。 ゆっくりと近づいてくる そっと膝をつく 白い腕が視界に入った。手桶で湯を汲んだ。 湯の流れる音 聞仲が溜息をついた。 『俺が洗ってやるよ』という言葉を飲み込んで、飛虎はじっと待つ。 行儀のよいところを見せておかなければ、聞仲は離れた所に浸かってしまうだろう。 幾ら人目から妨げられるように作っている露天風呂とはいえ、近くにはひとがいるのだ。そんな場所で聞仲が自ら『危険』を冒すわけがない。 ちゃぷん 形良い足先が飛虎の隣の湯面を蹴った。 そして静かに聞仲は湯に身体を沈める。 「お前も呑むか?」 「貰おう」 飛虎は内心を現さないように、努めて平静を装う。盃を白い手が受け取る。 「どうだ?」 「あまり甘くないな、でも美味しい」 聞仲の腰に手を回して引き寄せる。さりげなさが功を奏したのか、聞仲はそのまま飛虎の肩にしな垂れかかった。 「綺麗な空だ」 見上げて呟く、聞仲の方が綺麗だと飛虎は思った。 藍色になった空に浮かぶ丸い月。 湯面に映るそれをすくおうと手を泳がせる聞仲の姿に飛虎は笑みを浮かべた。 「ほんと、綺麗だよな」 相槌を打ち、聞仲の頭を抱え込むようにして口づけた。 「ん・・・」 髪に、額に、頬に軽く触れるだけのキス。 くすぐったいと、笑って逃げる聞仲の身体をやんわりと抱きとめる。 強く抱き締めたりすると逃げられてしまうから、ゆっくりと陥落させる作戦なのだ。 揺らめく透明な湯を通して、聞仲の身体が艶かしく動く。 「くすぐったいっ・・・」 聞仲の手から盃を取り上げ、背もたれていた岩の上に避難させる。 滑らかな肌の手触りを楽しみながら、飛虎は聞仲の力が抜けるのを待つ。肩から胸、腹部にかけて掌を這わせるだけで、聞仲が身をよじらせる。もがいているうちに、細い腰にかろうじて引っかかっていたタオルが外れて全てが顕になった。 飛虎はもう遠慮せずに、聞仲の大腿部を撫で上げた。 「ばか・・・やめっ」 大腿部の奥まで手を差し込むと、飛虎の胸に手をついて突っぱねる。 そこで、片方の手で奥を探りながら、片手を背中に這わせて抱きこんだ。紅く染まった聞仲の耳を軽く食む。聞仲が左右に首を振り、白金の濡れた髪が飛虎の顔に触れる。 「くすぐったい、聞仲」 「・・触るなっ」 少しばかり掠れた制止の声を飛虎は聞かない振りをして続ける。 「あつい・・・」 聞仲の身体の力が抜け、飛虎は湯の中に滑り込まないように慌てて支える。聞仲もすがるように飛虎の首に腕を回す。 「ん・・・」 丁度、いい位置にきた聞仲の唇に飛虎は口づける。すると、いつものように緩やかに唇が開き飛虎を受け入れた。 聞仲がぐったりとした時点でやめようと思った飛虎だったが、無意識にでもこのような態度に出られると理性はあっけなく崩れ落ちた。聞仲の身体を膝の上に載せる。力の抜けた身体は人形のようにされるがままだった。両足を割って、飛虎の脚を挟ませる形。聞仲は飛虎の肩口に顔を埋めている。飛虎は背中を抱え、湯の中に沈まないように気をつけながら空いた手で双丘の間を解す。 耳に直接、聞仲の反応を示す熱い吐息がかかり、飛虎は己が昂ぶるのを感じる。 時折、聞仲が堪えるためにか爪を立てる微かな痛みさえ、愛しい相手が自分に抱きついているという現実を如実に飛虎の脳に伝え、官能を刺激する材料となる。 頃合を見計らって、聞仲自身も軽く掌で包むようにして刺激を加える。力を持ち始めたのを感じ取ると、飛虎は手を離す。 快感を追おうと聞仲が身体を無意識に自ら寄せる。 飛虎は浮力で軽くなった身体を双丘を両手で割り広げるようにしながら持ち上げる。 湯面に漣が連続して起こり、しばらくの間、月影は空と同じ形を映していなかった。 「・・・気持ち悪い・・・」 「悪かった・・・この通りっ」 数十分後ー聞仲は布団の上で目を覚ました。予想通り、湯あたりを起こした聞仲は途中で気を失って、飛虎に慌てて運び出されたのだ。枕もとで両手をついて平謝りする飛虎の姿がそこにあった。 聞仲はじろり、と飛虎に目をやって、再び目を閉じる。半ば諦めの境地で溜息をついた。 温泉に行きたい、と言い出したのは自分だったのだからー ◇◇終◇◇ ◇東儀より一言◇ サイト開設祝いにいただいたSSです☆読んでるこっちが当てられてしまうラブラブ小説!しかもちょっとエ○有!嬉しいです〜〜(花) 自ら温泉に誘うとは、それはもう飛虎にとっては「喰ってくれ」と言ってるも同然のような…(笑) しかし…あの間が気になるのは私だけじゃないはずです(苦笑)そしてその後も…(^^;) 素晴らしい小説を、ありがとうございました☆ ◇流より一言◇ サイト宛に頂いたお話なので、私からもお礼を♪ 温泉で飛虎聞とくれば=ラブラブなシチュエーションですよねv 美しい自然の中で、美味しいお酒と極上の恋人を堪能する飛虎…ああっ!羨ましい!!しかもこの状況は据え膳ではありませんか〜(>_<) 思わずPCの前で動揺……落ち着け自分(笑) さくらんうさぎ様、素敵に幸せなお話をありがとうございましたv |