春を愛する人

 

仮タイトルは、"SEASON"。

この曲を「嫌い」って思っている人は、少ないんじゃないかな。
ファンに親しまれている曲、不動のナンバーワンです。今も、たぶん。

問答無用に「良い曲」。
愛されている曲です。春になるとラジオからも聴こえてきたりします。

春を愛する人は、皆に愛されます。

琢:「25年生きてきたうえで辿り着いた答え」
琢:「言うべき事を全部言ってしまった。これから何をテーマにしていけばいいのか分からなくなった」


作者自身も、発表当時から自信に満ち溢れたような感じで話していました。
それと同時に、全てを出し尽くしてしまったゆえの不安な心情も滲み出ているようでした。

"BELOVED"の時期は、タクロウさんの作詞表現のチカラが段違いに飛躍した頃です。
ちなみに"春を愛する人"の世界観を更に噛み砕いて表現したのが、"HOWEVER"だそうです。

96年6月に訪れた、アイスランド。
"BELOVED"のプロモ撮影のためでした。
アイスランドで見た景色、その場所で生きる人々。白夜。異国。
『無限のデジャヴ』には、アイスランド旅行の風景がおさめられています。

熱海…ッ!(笑)

異国に立って。
ただまっすぐにどこまでも続いている道の上に立って。
自分自身の立っている場所が、また別な角度で見えたのか。
改めて、自分が今まで一生懸命歩んできた道を振り返ったのか。
またひとつ、タクロウさんの心の中で大切な"何か"が生まれたんだろうな。

あの"BELOVED"のPVの「どこまでも続く一本の道」に、インスピレーションを得たそうです。

沈まない太陽…MIDNIGHT SUN。
森もない、溶岩で出来た島。そして、白夜。
1年を通して寒い気候、自然と相対して生き抜くだけで大変な生活。

「生きる」っていう事。

慣れない場所に佇んで。
住み慣れた、自分の生まれた場所を想う。
新しい視線で、見つめなおすことができる。

そのとき、タクロウさんの胸に去来したもの。
"SEASON"…季節の移り変わり…時間の移ろいなのかも。
そして、時間と共に生きる、人と人との関わりの大切さも。

人と人との関わり合いの中で、見出した答え。

それこそが。
「生きてく事は愛する事、愛される事」。

うーんと、レゲエって音楽があるじゃないですか。
日本人って、レゲエって夏に集中的に聴くよね。

いつのまにか日本では"レゲエ"="夏"ってイメージが根付いてる感じ。
でも、他の国や地域では、1年中作られているし、流れているし、愛されてる。

暑い時に聴く。
暑い時って、夏。

そうなんスよ。
日本には、季節の移り変わり…四季がある。
この歌は、日本に住んでいるからこそ生まれた歌なのだなと思います。

異国の地に立って、故郷の国について想う。
日本とは全然風土が異なる国、アイスランドに行った事。
そういうのがマイルドに噛み合ってこの曲が作られたんだと想うと、運命めいたものすら感じます(マイルドって)。


初めて聴いたのは、『口唇』を買った…いつだ、97年の夏頃でしょうか。
「うわぁ…いい曲だ…」と、A面の『口唇』とはまた違った感じで惚れたのを憶えてます。
『口唇』は「うわぁ…かっこいい」って感じでしたです。今もね。
まだ、メンバーさんの名前も知らない頃、てっきり「ヴォーカルの人」が作詞作曲をしてるんだと思い込んでた頃です(笑)。

このときは、ドカーンとはこなかった。
数日後に『HOWEVER』を食らい、衝撃を受けてファンになったんだけれども。
またその後改めて『BELOVED』のアルバムで『春を愛する人』を聴いてみたら、鳥肌が立つほど感動したっていう経緯です。


イントロ。
どこかのインタビューで、「ゴスペルの合唱のような荘厳さを出したかった」と言っていたような。
ピアノのメロディ、最初は幼いんだけど、段々頼もしいような、大人なような、そんな感じ(訳分からん)。

心臓の鼓動の音が小さく鳴ってるそうです。
ヘッドフォンでじーっと聴くと、それらしいリズムが入ってます。

 

Sunshine 遥かなる大地 明日へと続く道
   Moonlight 産まれては消える流星を見上げた

ただ訪れる春の 花の芽の息吹に似た
I want you  「生きてく事は愛する事 愛される事」と

 

ずっとずっと、歩いていく道。
遥か彼方まで、永遠のように続いてる道。

太陽の光に照らされる道を、歩いていく。

道の途中。
生まれては、消えゆく流れ星。
私達も、いつか消えてゆくのだとしても。

月の光に照らされる道を、歩いていく。

 

抱きしめたい こんなにも人を愛おしく思えるなんて
   そんな出逢いを 今2人で居る幸せ

Ah終わらない夏を 今も胸にしまってる
   I want you 寝息をたてる あなたの夢に飛び込むSummerdays

 

上2行…あらためて目にすると、すごい照れくさいね(///)。
てっこさんの歌で聴くと、サラリと聴けるんだけど、文字にするとストレートです。

終わらない夏。
終わらない夏のように。

出逢った頃に感じた愛しさを、いつまでも忘れないで。

2人でいる幸せを。
2人出逢えた幸せを、奇跡を、忘れないで。

最下行も…恥ずかしい…(これこれ)。
メロディーがいいんだね。スッと歌えるんだもんね。

 

いくつもの眠れぬ夜は 街の灯を数えていたね
   伝えて欲しい言葉達  飲み込まれた Oh yesterday

軽はずみな優しさほど 独りの夜が辛くなる
   わかり合いたい気持ちほど不安定な恋に悩む ねぇ そうだろう?

 

不安や寂しさで眠れない夜。
そこにいる命を数えるように、確かめるように、街にともる灯りを数える。

伝えたい気持ち。
伝えたい気持ちを伝えて欲しい言葉は、いつも飲み込んでばかりだった過去。

ちょっとした優しさに触れるたびに、独りがこわくなる。
優しさを得ることで、どんどん自分が弱くなるような感覚を覚えてく。

「軽はずみな優しさ」って、「またここであいましょう」にも出てきたですね。

孤独な人ほど、不安になる。
「自分は独りでも生きていける」と思い込んでいる人ほど、優しさに飢えているから。

優しさがすごく欲しいんだ。
でも、なにはともあれまず疑うんだ。

本当の優しさなのかどうかを慎重に見極めようとする。
軽はずみな優しさほど、独りになった時に受けるダメージは大きいもので。

それはとてもさびしい事なのだけれど。

「分かり合いたい」って気持ちが強ければ強いほど、分かり合えているのかが不安になる。
すんごくよく分かります。考えれば考えるだけ、悩んでく。誰もがそうだよね。

「ねぇ、そうだろう?」

GLAYの歌詞には珍しい"問いかけ"。
これまでのタクロウさんの歌詞は、己の内面に問い掛けまくって、それで詞を書いてた。
自分自身で絞り出すように答えを導き出せた曲もあれば、分からないままに、分からない心情を綴った詞もあります。

『BELOVED』発売当時、テルさんが「とても珍しいこと」だと話してました。
「みんなそうだよね」と、リスナーに問い掛ける詞は初めてかもしれないと。リスナーに答えを託す、みたいな。

「分かり合いたい気持ち」…これは、リスナーにも向けているメッセージなのかもしれないなと。
自己完結に終わらせてないっていう。自己完結のその先にも目を向けられるようになったんじゃないかな。

 

My Love あたりまえの愛 あたりまえの幸せを
   ずっと捜し続けても つかめないもんだね

Ah切なくて 秋の散りゆく街路樹を背に
   I want you  狂おしいほどあなたの事を思っていたよ

 


どんどん核心に迫っていく。

あたりまえの愛。
あたりまえの幸せ。

当時のタクロウさんが想っていた「あたりまえの愛と、あたりまえの幸せ」が、何を指すのかは分からない。

ずっと探し続けているもの。
探し続けているけど、つかめないもの。
一生懸命手をのばしても、届かないもの。

追いかけている時というか、走っている時って、小さな愛を中々気付けない。
「自分が欲しいのはもっと先にあるはずだ」と信じて、ひたすら追いかけ続ける。
いつか、斃れる日まで。

あたりまえの愛や、あたりまえの幸せは。
きっと、あたりまえのように隣に在るものなのだと思います。

けど、「つかめないもんだね〜」って思う。よく思う。切ない。
分かってるけど、分かってるんだけど、探したいというか、そうやって求めていきたいというか。
でも、何が欲しいのか、具体的には分からないんだな。むしろ分からないでいようとするんだな。

夏が終わり、秋を迎える。
あたりまえのように、夏の終わりを受け入れる。

でも、そんな風に「生きる事」を、受け入れたい。
生きるうえで遭遇する辛い出来事とかも、あたりまえのように受け入れたい。

あんなに瑞々しかった街路樹の葉も、寒風に吹かれ、色褪せては散っていく。
無常ゆえ、季節は瞬く間に変わってゆくけれど、あなたを想う気持ちは変わらない。

狂おしいほどに。
散る枯れ葉に、時の移り変わりを感じながら。
どうにかなってしまいそうなほど、ずっとあなたの事を想っている。

 

遠い異国の空,Ah その昔ここに辿り付き 
   この地に何を見た? 旅人?

 

ここで、ほとばしるように綴られてきた「あなたへの想い」にワンクッション置かれます。
全くの別視点に切り替わるんです。

「目の前のあなた」から、もっと遠くへ。
遠くというか、遥か過去まで思考の意識がジャンプする。
自分が体験した事のない場所まで。

過去に、ここを訪れた旅人。
「あなた」は、この場所にたどり着き、何を見て、何を感じた?

求めて続けて辿り着いたのか。
まだまだ、旅の途中だったのか。
光に導かれて、ここまで来たのか。

今、この場所に立っている自分。
異国から来た自分が、この地に辿りついて見つめている景色を。
昔の旅人も、今自分が見ている景色と同じ景色を、目にしていたのだろうか。

同じ事を、思ったのだろうか。

ここでも、時の流れを歌っている。
そして、過去の自分自身と、現在の自分自身を向き合わせてるような。

 

一緒に生きて行く事は たやすくないとわかってる
   安物の「永遠」なんて そこら中に溢れている

 

…たまらんですよ。
『春を愛する人』の中で、一番ガッツーンときたフレーズです。
GLAYの曲の中で、一番ガッツーンときたフレーズかもです。

人生観すら変わったからね。
いやいや、ヘッポコ過ぎて涙が出てくる私の人生観なんだけどね。

一緒に生きて行く事。
大切だと思った人と、いつまでも一緒に生きていきたいと願う心は、みんな同じ。

でも、それは決して簡単な事じゃない。
ずっと一緒にいる事、ずっと2人で生きてゆく事は、「永遠を掴む」って事。

つまりは、永遠との戦い。

「永遠」は逃げます。
隙あらば、マッハの勢いで姿を隠します。
大切に、いっつも目をかけてあげていないと、途端にグレます。

「運命」なんてない。
んなのあったら、みんなこんなに大変な思いしないで済むじゃない。

その時、「一緒にいよう」と誓っても。
その時、「ずっと」を誓ったとしても。

その後、約束が壊れてしまったら、それは「ずっと」にはならないんだな。

唐突に。
或いは、ゆるやかに。
「ずっと」を誓った日には思いもしなかった終点が、待ち受ける。

「安物の"永遠"」。
この言葉使いはすっげぇなと思った。
参りました。降参しました。

誰よりも、「永遠」を欲しがる人。
この場合、頭に「ホンモノの」が付くかな。

ピカピカの硝子玉か、泥だらけのダイヤモンドか。

この世界にあふれているものは、ピカピカの硝子玉。
この世界にあふれているものは、「安物の"永遠"」。

「そんなもの、俺は欲しくないんだ」と。
「欲しいのは、たったひとつ、"永遠"なんだ」と。

 

ごらんよ僕らの掌 わずかな時間しかないさ
   だから体中で愛を伝えたくて 生き急いでいる ねぇ そうだろう?

 

そうやって、「ずっと」を求めてゆく。

けど、残されている時間は。
与えられた時間は、ほんのわずかしかないんだよ。

流れて流れて止まらない時間。
私達が生まれる前…途方もない過去からずっと、容赦無く時は流れ続けている。

ひとりひとりに与えられた時間は、ごくわずかな時間。
だからこそ、人は全身全霊で生きようとする。

限りがあるからこそ、懸命に生きようとするんじゃないだろうか。
変わってゆくものの中で、変わらないものを抱えながら。

気持ちを、愛情を、伝えようとするんじゃないだろうか。
たとえ生き急ぐとしても、伝えずにはいられないんじゃないか。

そんな風に、思います。
そして、痛いほど、実感します。

というか、現アレンジではここの部分にドラムがドンドンドン!って入ってるんです。
「わずかな時間しかないさ」の直後に。切羽詰まるような、叫ぶような感じ。泣けます。

 

My Life 振り返る日々の夢の間に間に
   そっと頬なでる 恋の懐かしい痛みよ



 

「永遠」を守りながら、惜しみない愛情を注ぎながら、生きてゆく。
時に、生活の間に間の、夢の間に間に、歩いてきた道を振り返る。

自分だけの道。
それは、異国の地の、どこまでも続く道。
あの一本道が、自分の生きる…これからも歩いていく自分だけの道に重なる。

道の途中では。
季節が変わるように、様々な出来事に出会うだろう。

 

Ahやがて来る冬の 肌を刺す風の中で
   I want you  確かな鼓動 はばたく時を待ちわびている

 

懐かしい痛み。
許せないと思った事も。
ひどく絶望に打ちひしがれた事も。
時間が流れる事で、歩き続けていく事で、いつか穏やかな風になるのだろう。

そっと心を撫でるように、通り過ぎてゆく小さな痛み。
時間を重ねて、生を重ねて、少しずつでも確かに「強くなった」っていう証のような。

秋も終わり、冬の凍てつく寒さが容赦無く吹きつける。
だけど、冷たい風に晒されながらも、決して鳴り止まない鼓動。

やがて来る春を待ちわびながら。
空へと高くはばたける日を…春を、待っている。

これも「無常」なんだけど。
冬がくるなら、その後に春が必ずやってくる。
順番は違えずに、けれど必ずやってくる。

これ以上の真実はないかなとさえ思う。

それと同じ。
辛い事や悲しい事の後には、必ず待ちわびた喜びが待っている。
冬が長ければ長いほど、その後の春の暖かさに喜びが増すように。

 

Sunshine 遥かなる大地 明日へと続く道
   Moonlight 産まれては消える流星を見上げた

ただ訪れる春の 花の芽の息吹に似た
   I want you  「生きてく事は愛する事 愛される事」と

 

四季の移り変わりを、人の生に重ねる。
過去にも、多くの表現者達がよく使ってきた手法。

たたみかけるような、「I want you」。
ある意味、悲壮さというか、直情的というか。
言葉をこれでもかって詰め込むだけ詰め込んだような。

春が訪れる。
冷たい雪の隙間。
花の芽の息吹。生命の証。

これから咲こうとしている花達。
きっと、太陽の光に包まれ、大地に支えられ、力強く咲き誇るだろう。

命の証にも似た、どこまでも続く道の途中でたどり着いたひとつの答え。

「生きてく事は愛する事 愛される事」

愛して、愛されて、そうやって生きていく。
この事が、この事だけが、生きていくうえでのゆるぎない答えなんだと思う。

孤独を感じる時もある。
失敗ばかり続いて、投げ出したくなる時もある。

でも、「今は冬、もうすぐ春がくる」…ただ、それだけの事。
必ず、懐かしい痛みへと変わる日がくるよ。

限られた時間の中で、精一杯に人を愛そう。
一秒も無駄にはしないで、精一杯生きて、愛そう。

愛する強さを。
どんな時でも、愛する強さを。愛せる力を。

愛する人は、愛される。
愛される事を知って、愛する事を知る。

春を愛する人は、春に愛される。
愛する人は、愛される。

 

 

 

20030413