飛虎の家は広い。築百年はゆうに越える、古い日本家屋である。 建物は母屋と離れの二棟で、飛虎の部屋はその離れの方にあった。 そちらにはかつて祖父母が暮らしていたのだが、飛虎が高校にあがった頃に二人とも亡くなり、 3人の弟妹がそれぞれ自分の部屋を持ちたがったことと、 祖父が収集していた蔵書の管理もかねて移ってきたのだ。 手入れの行き届いた庭をみながら、渡り廊下を通って自室まで戻ってくる。 そこには、一足先に聞仲が戻ってきているはずであった。 「終わったぞー」 障子を開けて自室を覗くが、部屋は空っぽである。 「ありゃ?」 さて、では一体何処へ? もしかして、気が変わってしまったのだろうか…… 嫌な予感が飛虎の心を占めはじめた時だった。 「飛虎?戻ってきたのか?」 聞仲の声がいささか離れたところから聞こえた。 どうやら廊下を左に折れた所にある縁側にいるらしい。 日当たりの良いその場所は、家の中でも一番奥まったところにあるため、 閑静な雰囲気で、聞仲お気に入りの場所でもあった。 「おー、戻ってきたぜー」 飛虎は返事をしながら聞仲の許まで走って行く。ギシギシと床が悲鳴を上げた。 「こら、騒々しい」 首だけ飛虎の方へ巡らせて注意を与えたが、その顔は微笑を浮かべている。 開け放ったガラス戸の外がわ、濡れ縁の所で朝日を浴びながら聞仲は腰掛けていた。 淡い金の髪が陽光を反射してきらきらと輝く様子が何とも美しい。 「待ちくたびれたぞ」 「ごめんな」 飛虎も笑い返すと、自分の唇を相手のそれに重ね合わせた。 「ん……」 すっと、聞仲の腕が飛虎の首へと回される。飛虎も、相手をかき抱く腕に力を込めた。 いつしか口づけは深くなり、互いの呼気すらも食らいつくさんばかりとなる。 そのうち、ゆっくりと二人の身体は床へと傾いて行った。 「はぁ……」 思う様互いの唇を貪り合い、ようやく離すと、飛虎は聞仲の身体の上に覆い被さったまま、 相手の袴の紐に手を掛けようとした。 「ここでは…ならぬ……」 弾む息の下、ゆるゆると首を振ってそれだけをどうにか口にする聞仲。 「どうして……?」 ここは家の奥であるし、家族は昨日から皆出払ってしまっているので、誰も、 二人の禁じられた逢瀬を見とがめる者はいない。 「別に気にする必要なんて、全然ないぜ?」 飛虎は言いながら、聞仲の抵抗しようとする両腕を左手で頭上の床に縫い止め、 袴の紐を解いて、浄衣の袷をはだけさせた。 「やめないか…っ」 「明るいところで、お前の全てを見てみたいんだ……一度だけで良いから……」 飛虎は「お願いだ」と幾度も縋るような目で訴える。 「嫌だ」と、訴えられた数だけ聞仲は小さくかぶりを振り、飛虎の願いを却下し続ける。 そんな押し問答がしばらく続いた。 「……そんなに…見たい、のか……?」 小さく、独り言のように聞仲が呟くと、飛虎は「そうだ」と大きく頷く。 「ならば、この手を離せ……このような状況は好かぬ……」 仮にも神の位置に列せられた者として、たかが人間ごときに何かを強いられることは、プライドが許さない。 あくまで、みずからの意志で、という形を取りたかった。 飛虎がゆっくりと戒めていた手を離し、覆い被さっていた身体を起こすと、 聞仲もゆっくりと上半身を起こした。 「聞仲?」 「もう一度問う。それほど迄に見たいのか?」 「見たい」 間髪を入れずに飛虎が応じる。 「ならば……これきりぞ」 二度とこのようなことはないのだ、と言外に匂わせ、聞仲は改めて己の身体を飛虎に預けた…… ◇◇続◇◇ ◇流より一言◇ 前回のお話、「神主の飛虎と式神の聞仲」の続きにあたるお話ですv 続きは〜?とおねだりして書いていただきましたv 一回のキリ番で続きまでお願いできるなんて… 一粒で二度美味しいとは正にこの事…(笑) それにしてもこれからがイイ所ですよね♪もちろん次回もまた美味しいお話ですv |