「サンキュ」

己の胸元に身体を預けた聞仲の額の内に眠っている第三の目の上に、 飛虎は思いを込めて唇を押し当てる。
そして、そっと抱き上げると、行儀悪く足で障子を開け、まだあげていなかった布団の上に彼をおろした。
いくら許しをくれたとはいえ、「明るいところは嫌」と何度も訴えていた聞仲への配慮のつもりだ。
昼間であるため、部屋のなかは明るいが、廊下で事に及ぶよりはましだろう。
一応、飛虎なりに反省はしているのである。
(誰だって、いきなり誰に覗かれるかわからないような所で押し倒されるのは勘弁だよな……)と。


それ以前に、人ならざりしもの…ましてや神とこのような形で契ること自体が、禁じられた許されざる行為に値するので、 そちらをまずは反省すべきでは無いのかと思われるのだが、 飛虎は、聞仲に関してのみ、禁忌という概念が消滅してしまうらしい。


「聞仲…いいよな?」

念を押すように再び彼の身体をかき抱き、形の良い耳にそっとささやきかける。

「その前に……もう一つ忘れていないか?」

「えっ?」

己の首筋を、そこに顔を埋めようとした飛虎の顔との間に聞仲が手を差し入れて動きを阻止したのだ。
そのようなことは予想だにしていなかった飛虎は、水を差されて困惑顔である。
「な、なんだよ……?」

「わからぬのか?」

「『わからぬのか』って、だから、なにが?」

飛虎は聞仲に巻き付けていた腕を放し、自分の胸の前に組み直して考えたが、問いの意味がよく分からなくて質問し返した。
「……この私に、ただ働きをさせるつもりか?」

訳がわからないという顔をする飛虎に、聞仲は再び問いかける。
「あっ、そーか!」ポン!と飛虎は手を打った。


願掛けというのは一種の取引である。
取引は、何かを要求し、受け取ったら、相手へ必ずその代償を支払ったり、相手の希望を聞き入れたりする。
昔も今も神仏に願いごとをする時はお賽銭を投げ入れたり、ものを寄進するが、 それは「これだけのことをしたんだから見合った御利益を授けてくれよ」と暗に神仏に要求しているのだ。
逆に見れば、神様はそれだけ礼を尽くした上でないと動いてはくれない、と考えられている。


「いっけね。すっかり忘れていたぜ」

飛虎はぺろっと舌を出した。

「じゃ、毎度同じで変わりばえがないけど……俺ってことで。」

その言葉を聞いて、聞仲はその秀麗な顔に微笑を浮かべた。

「煮るなり焼くなり好きにしていいからさ」

いいながら飛虎は聞仲の身体にしなだれかかって上目遣いに彼の様子をうかがう。

「雷神様ぁ、お・ね・が・いっ」

聞仲がつかさどっているものは雷である。
彼の逆鱗を逆撫でしようものならば天候が一変し、たちまちのうちにあたりに災害をもたらすのだ。
逆鱗を逆撫でする行為の最たる物が、彼の神としての矜持を無視することである。
従える過程を経ずにそんなことをすると怖ろしい災難に見舞われ、下手をすれば命すら落とす。





そんな中で、彼を己のものとして従えても飛虎は決して従属物という扱いはせずに対等なパートナーとして扱っていた。
自分が惚れたのは、誰に命じられたのでもなくみずからの意志でもって自分を救ってくれた時の彼だったから……
聞仲はそのような飛虎が不思議でならなかった。

誰もが己を従えて道具のように扱おうとしていた。
それが、唯一人違っていたのだから。
人に従う以上は何を差し置いても主の命を最優先しなければならない。
それが力を悪用されることであろうと、屈辱的とされること…この身を同じ性を持つ者に差し出すことであっても。
だが、彼はこれまでの私を損なうことなく受け入れた……
だからなのだろうか。他者ならばともかく飛虎にこの身を与えることを、私はそのようには捉えていない。
認めたくはないが、むしろどこかで喜んではいないか?
そして、私を与えることで、飛虎が私に縛られていることを……
通常の思考とは異なる何かが働きかけているようだ。
その何かの正体は未だに分からぬままであるが、それは私にとっておそらく悪い物であることはないはずだ……





改めて聞仲に触れる許しを求めてくる飛虎の身体を優しく包み込むように抱くと、彼の耳元に聞仲は囁いてやった。
「許す……来よ」

「いただきまーす」



ゆっくりと飛虎が聞仲の身体を幾重にも包む衣を一枚ずつ丁寧に脱がせて行く。

「あっ……飛虎…」

纏うものが単衣一枚になったとき、聞仲が呼んだ。

「何?」

「お前も…脱がぬか」

言いながら、聞仲は飛虎の袴の紐を引く。しゅっと布の擦れる音がして結び目がほどけた。

「聞仲…??」

やけに積極的じゃないかと驚きを隠せない飛虎に彼に向かって妖しさを秘めた笑みを見せる。

「言っていたであろう?『好きにしてよい』と。私を求めた代償ぞ」

「喜んで払わせていただきますとも」

飛虎もニッと笑い返した。
袴の紐を解いて袴と下衣を取り去ると、そこには飛虎の分身が早々と力を得て鎌首をもたげはじめていた。

「随分と威勢の良いことだな」

興味深げに聞仲はじっとそれを眺めながら指でつついたりしてからかってみる。

「おかげさまで。でもな、こんなもんじゃきかねえぜ。お前の中に入る時は」

途端にサッと聞仲の顔が紅に染まった。

「ばっ、ばかなことを……」

「本当だって。ほら」

飛虎は聞仲の手を取ると存在を主張する欲望の徴まで導く。

「熱い……」

「それだけ俺はお前が好きで、大事で、求めてるって一つの証拠さ」

「私を…?」

「そうだよ」

疑わしげに問い返してくる聞仲の手に、飛虎が誓うように唇を寄せた。
「最初にいったろ。俺は力を求めたんじゃない。あくまでお前って個性じゃなくちゃ、意味がないんだ」

手を引き、細身の身体を抱き寄せて白い単衣を脱がし、露になった滑らかで白い肌に幾つもの烙印を押して行く。

「んんっ」

肌を吸われる感触がくすぐったいのか、身体が敏感に反応する。
背に回されて聞仲を支えていた飛虎の手はいつの間にか移動して様々な悪戯をその身体に施した。
巧みな愛撫に翻弄されてどんどん息が乱れていく。
いつしか、聞仲は声を抑えることを忘れて嬌声を漏らしていた。
やがて、馴らすために秘所に挿入されていた指が引き抜かれる。

「ひこぉっ……ぃやぁ…っ」

「もっといいモノ入れてやるから……ほら」

欲情に満ちた声で言われると同時に、熱を帯びたものが縋るべきモノを見失って狼狽えていた箇所にあてがわれる。

「さっきお前が見て触れていたやつだよ。入れるぞ」

来るべき衝撃におびえて聞仲が飛虎の逞しい背に爪を立てた。

「力を抜けよ…きついぞ」

宥めながら、慎重に聞仲の腰をそそり立つ楔の上に下ろしてやる。

「う……くぅ……」

眉根を寄せながら身体を裂かれるような痛みをやり過ごす聞仲の表情は、飛虎に思わず生唾を飲み込ませるほどだった。
無事飛虎の分身全てを身のうちに収めきると、聞仲は大きく息を吐いた。

「大丈夫か?」

余りの消耗ぶりに飛虎は相手の背をさするなどして労ってやる。

「だい、丈夫、だ」

聞仲が笑顔を作って見せた。
それに呼応するように、飛虎が更なる奥を目指して突き上げを加えてくる。

「聞仲……っ!」

切なげに名を呼びながら激しく相手を求め、神を本能のままに生きる動物の位置まで引きずり下ろす。

「はぁっ……あ、あっ!飛虎ぉ……!」

しっかと相手の首に腕を巻き付けてしなやかな背をのけぞらせて悶え、己のうちをかき回すモノをきつく締め上げる。
やがて、限界を迎えた彼らは余韻を味わうこともせずに再び互いを求めはじめた……


「お前だけ…こうしたいと願ったのはお前だけだ…聞仲…」

思う様聞仲を貪って後。
力を込めて、ぐったりとしている聞仲の身体をかき抱きながら、飛虎はささやきかけた。

「許して、くれ……もう自分を止められない…」


◇◇終◇◇



◇流より一言◇
「ひめごと」の第二話、全開の補完編ですvv   更に続きをおねだりし、又しても素敵なお話を書いていただきましたv
えへへv…二度あることは三度あるんですねぇ♪
人間、真面目に生きてれば良いこともあるものなのです。ふふふふ…vv (黒笑)




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