「…暑い……」 蒸し風呂 今の状態を表現するなら、その言葉しかないであろう。 あまりの暑さに貧血を起しそうになりながら、聞仲は辺りを見廻した。 空が覆い尽くされてしまう程に生い茂った木々。見た事もない植物達。何処からか聞こえてくる無気味な鳴き声。 どうやらここは熱帯雨林の真っ只中のようだ。 思っていたものとは大分違うが、どうしたものだろうか…などと考えていると、少し離れた木の裏から聞きなれた声がした。 「聞仲!そこにいるのか?」 「飛虎?私はここに…………元気そうだな」 この凄まじい暑さを物ともせずに足元の草やら枯れ枝、果ては倒木までもをバキバキと踏み越えてくるやたらパワフルで健康な飛虎の姿を見ただけで、聞仲はいきなり疲労を感じてしまった。 しかも飛虎は見るからに重く暑そうな鎧をきっちりと着込んでいる。 はっきり言って、見ているだけで暑苦しい。 だかその装備を見る限り、ここでの飛虎の役割は戦士か勇者らしい。使い慣れない筈の巨大な剣を当然のようにしっかりと握り締めている。 では自分は…と思い装備をチェックしようとしたところで、傍らに来た飛虎に声を掛けられた。 「オメー…ヘンな格好だな」 ──いきなりそれか!── 飛虎のデリカシーのカケラも無い物言いには慣れている筈の聞仲だったが、暑さのせいもあるのだろう、この一言に眩暈がしそうな怒りを感じた。 「キサマというヤツは!『無事だったか』とか『この世界は何だ?』とか『暑いな』とか、そういった普通の感想は無いのか!!」 怒り全開で怒鳴る聞仲を飛虎は不思議そうに見つめる。 「オメーが無事なのは見ればわかるし、この世界は多分『RPG』とかゆうヤツだろ。それにこの暑さは森を抜けない限りどーしようもねぇだろうし…だったら一番気になるのはオメーのその格好だよ」 「………好きにしろ」 ぐったり いきなりゲームオーバーになってしまいそうな疲労に襲われながらも、聞仲は仕方なく自分の状態を確認する事にした。 LV:7 HP:999 MP:999 攻撃力:7 防御力:255 魔力:255 武器:木の杖 防具:聖者のローブ 装飾:光のサークレット 習得呪文:1 聞仲は声も無かった。 ──レベルが低いのはいい。魔道士なのだから攻撃力が低いのもわかる。武器が弱いのは魔法で戦えという事なのだろう。テストプレー用なのだから、最初からステータスが高かったり、装備品が良かったりするのはよくある事だ。 しかし!習得呪文が『1』とは何だ!何故レベル7の魔道士が一つしか呪文を覚えておらぬのだ!!── あまりの衝撃に呆然としている聞仲に、飛虎は容赦なく追い討ちを掛ける。 「何つーかヘンなデータだよな。強いんだか弱いんだかよくわかんねぇし…でもよう、何で呪文が一つしか使えないんだ?魔道士のくせに」 「うるさいわ!!私の方が聞きたいくらいだ!!!」 叫ぶ聞仲の姿が何だかとても哀れだったので、飛虎は慌てて取り繕った。 「ま、まあいいじゃねぇか一つでもよ。きっと最強呪文なんだぜ『ギガ○イン』とか『ティルトウェ○ト』とか…な」 「最強呪文…」 その一言に聞仲の表情が一気に明るくなる。 「そ、そうだな。おそらくそれ一つあれば他は必要ないのだろう。それだけで全ての敵を倒せる最強の呪文に違いない!よし、早速確認だ!」 喜び勇んでステータスを再確認した聞仲が見た『最強呪文』は… 「お、落ち着け聞仲!!」 取り乱した聞仲を抑えながら、自分のステータスと装備が全て最強レベルだった事、ここに来るついでにこの森のボスらしき怪物をあっさりと倒してしまった事、 ましてや『勇者』である自分は回復呪文まで使えてしまう…なんて事は絶対に黙っていよう、と飛虎は固く心に誓っていた。 ◇◇続◇◇ 予告通りイロモノです(笑) 話の中で使われている呪文に趣味が出てますね(^^ゞ この二人が格闘ゲームの世界に入ってしまったらものすごい事になってしまいそうですが、今回は誰でも出来るRPGなので二人が戦う事はないでしょう。 良かったね飛虎、格ゲーだとどっちが勝っても後のフォローが大変そうだもんね(笑) 思う存分敵を倒せて旅行も出来る。飛虎にとっては楽しいゲームのようですが聞仲様は……ああっこれ以上は言えません。頑張れ聞仲様!! |