テストプレー -4



光の糸を集めてできたかのような美しい金の髪。
見ているだけで吸い込まれてしまいそうな程の深さをもった透明な蒼の瞳。
象牙と真珠を溶かし込んで彩ったかのような滑らかに白い肌。
今までと同じ顔立ちのはずなのに、受ける印象があきらかに違っている。
何より違うのはその体型。
ほっそりとした身体つきは華奢に見えるほどなのに、内側から輝くような生命力が感じられた。
明らかにいつもの彼ではない。
どこからみても完璧に美少女だった。

「何だ今のは。私は呪われていたというのか?まったく失礼な話だ。初めからおかしいとは思っていたがな」

ムッとして話す声までがいつもと違う。
その声は未だ幼い響きを残していて…もしかしたら「少女」ではなく「少年」なのかもしれないが、この際もうどっちでも同じような気がする。

「これでようやく他の呪文が使えるようになったということだな。…だがゲームをクリアしてから使えるようになったところであまり意味はないと思うのだが…」

そう言いながらも聞仲は弾んだ声で楽しげにステータスを確認する。しかしそんな楽しい予想に反して使用可能呪文はやはり『メラ』だけだった。

「何だ、ステータスには変化がないではないか。一体何の呪いが解けたというのだ!そう思わんか飛虎。…飛虎?」

訝しむように声を掛けられてようやく我に返った飛虎は、信じられないものを見るような目で聞仲を見た。

「聞仲…」

「何だその微妙な顔は」

「呪い…」

「呪いがどうした」

「解けた…の、か…」

「解けてなどいないだろうが。何一つ変わっていない」

不機嫌に言うと、飛虎はふるふると首を振った。

「解けてる…ぞ。……たぶん」

「何処がだ」

「顔…」

「顔だと?」

そう言われて、聞仲はペタペタと自分の顔を触ってみた。

「特に何も付いていないようだが?」

不思議そうに首をかしげる聞仲は全然分かっていないが、飛虎にしてみればもうそれどころではない。

「ステータス…確認してみろよ」

「もう確認済みだ。言っただろう、何も変わってなどいない」

「…職業」

「職業がどうした」

「いいから職業を確認してみろ!」

お前のいう事はよく分からんな。などと言いながらも飛虎の剣幕に押されて、再度ステータスを確認する聞仲だった。

「私の職業は『最強の魔道士』に決まって…」



プリンセス



しーん。
なんだ。
何だこれは。

「うわああああああぁぁっ!!何だこれはぁっ!!」

パニックに陥っている聞仲を見ながら、飛虎はポツリと冷静に呟いた。

「そうか…だから攻撃力が弱かったんだな」

「そんな事を言っている場合か!!」

聞仲は渾身の力を込めた一撃を放ったが所詮は攻撃力7 『勇者』様の防御力の前に涙を呑むしかない。

「……嫌いだ、貴様なんか」

一人哀しく自分の拳をさする聞仲に、飛虎は近寄って優しく声を掛けた。

「大丈夫か?聞仲。その…ちょっと落ち着けよ。な?」

「…飛虎」

傷心の親友を少しでも慰めようと、飛虎は大きな手をそっと聞仲の肩に置いた。


その時。


ジャジャジャジャーン♪

こうして勇者飛虎は見事に悪の魔王を倒し、
皇女聞仲の呪いを解いたのであった。



「聞仲…何かまた変なナレーション入ってるぜ」

そのナレーションにかなりガックリきたのだろう。聞仲は力なく頷いた。

「……もう、好きにすればよいのだ。どうせこれで終りなのだからな」



そして二人は手を取り合って城に戻り、
全国民の祝福を受けて
盛大な結婚式を挙げるのであった。



「はぁ?」

「い、今なんと…」

二人同時に自分の耳を疑った瞬間、突如として世界が暗闇に包まれた。
慌てて周りを見渡すと、次に目に入ってきたのは祝宴の光景。
そう、二人は城の大広間で結婚式の真っ最中だったのだ。

「ぶ、聞仲!何だよこれは!」

「な、な、な、な、な……」

相次ぐ悪夢の出来事に、再び聞仲がパニックに陥ろうとしたその瞬間。



パンパーカーパーン パンパーカパーン
パンパーパパンパーパ パンパーカパーン♪



結婚行進曲が流れてきた。しかもこれ以上なさそうなほど能天気に…
それと同時に何故か二人の身体が意思に反して動き始める。

「か、身体が…身体が勝手に!?」

「……なあ、これってもしかして『強制イベント』ってヤツじゃねぇのか?」



『強制イベント』



一度始まってしまったが最後、どんなに嫌だったとしてもそのイベントが終了するまでは、何一つ自分の意思で操作することが出来ない、あの恐怖の『強制イベント』

「あ、あ、ああああ、◇*$○×#∴☆@%◆▽っっ!!」

「…せめて人間の言葉で喋れよ、聞仲」

などと無駄口を叩いている間にも、結婚式はサクサクと勝手につつがなく執りおこなわれ、後は誓いの口付けを残すのみになってしまった。

「くっ…う、うう…うううううっ……」

ついに呻き声の中に泣きが混ざり始めた聞仲を、飛虎は必死で慰めようとする。

「聞仲、もうどうしようもないから諦めろ。どうせこれで終わりなんだからいいじゃねえか。中学やそこらのガキじゃねぇんだから、キスくらい大した事ないだろうが」

「馬鹿者!!そんな問題ではないわ!今のこの状況を真面目に考えてみろ!!!」

キッっと自分を睨んでくる聞仲の涙に濡れた瞳の透き通るような美しさに、飛虎は一瞬言葉を失った。
しかもよく考えると今の聞仲の外見は、まさに「中学やそこら」も同然だ。

「あー…いや、その…ゲ、ゲームだし…な」

同様のあまりオロオロしながらも、何とか聞仲を慰めようとしていた飛虎の腕が、突然ガッチリと聞仲を抱きしめる。

「…………何をしている、飛虎」

「だ、だから身体が勝手に動くんだよ」

「気合で抵抗しろ!!」

と怒鳴る聞仲だったが、その腕はしっかりと飛虎の首に廻されていた。

「オメーだって逆らえねぇじゃねえか。……『愛してるよ、聞仲』ああっ!何だよこれはっ!!」

「き、気でも狂ったのか!飛虎……『私もですわ、勇者様v』うわあああぁぁぁっ!く、口が、口が勝手に!!」

どうやら台詞付きらしい。恐るべし!『強制イベント』



そうして二人は誓いの口付けを交わし、
全世界の祝福の嵐の中、
幸福に包まれて挙式を終えた。



そのナレーションが入った途端。
飛虎は花嫁に優しく口付けるのを止められず、聞仲は何一つ抵抗出来ないまま思いっきり受け入れていた。


◇◇続◇◇



…と言うわけで、予告通り話はヘンな方向に(笑)
聞仲さまの不幸はまだ終わっていません。
前にも書きましたが、この話の二人はあくまで親友です。長い付き合いです。いわゆる腐れ縁です。
もちろん互いにシタゴコロはありません(笑)
その辺を頭に入れて読んで下さいませ♪

あ、呪いが解けた姿は16歳聞仲だと思っていただければ間違いないです。
性別は特に表記しなかったので、お好みの方を選択して下さい(笑)




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