そして、永遠にも思える長い口付けの最中、またしても世界が真っ暗になり、ようやく開放されると思った二人が次に見たものは、薄暗い寝室に立っている自分達の姿だった。 「……聞仲…帰れるんじゃなかったのか」 「な、何故だ、何故帰れんのだ…」 呆然と呟く聞仲は、先程の精神的ダメージがまだ抜けていないらしい。どう考えてもあてにならないので、飛虎は自力で脱出方法を探す事にした。 窓もドアもどうやっても開かない。何故か力ずくで壊すことも出来ない。仕方なく目に付く物を手当たり次第にいじってみたが、状況は一行に変わらなかった。が、ベットサイドの本を手に取った瞬間、聞きたくもないが聞きなれた音が聞こえてきた。 「よしこれだ!きっとこれで帰れ…」 ……………… しーん。 しーーーーーーん。 凍りついたような静寂が訪れた。 一瞬後。 「何というふざけたものを見つけるのだキサマはっ!!!」 聞仲の絶叫が部屋中に響き渡った。 「絶対に許さん!メラメラメラメラメラァ!!」 『メラ魔道士』から『メラプリンセス』に昇格した聞仲は、怒りに任せてメラを連発する。 「あっ、あっつつ…あちあち…」 飛虎は何とか直撃を避けている。流石は『勇者』様。 「聞仲、あっちいじゃねえかよ!」 「当り前だ!」 「ちょっと落ち着けよ」 「出来るか!!」 もちろん聞仲は聞く耳を持たない。 「もしかしたら帰る方法が書いてあるかもしれねぇんだぞ!」 ぴた。 その一言に動きを止めた聞仲だが、飛虎を見る目は不信感で一杯だった。 「…本当なのか?」 思いっきり疑わしそうな顔をしている。しかし飛虎そんな視線をものともせずに堂々と答えた。 「そんなの俺が知るわけないだろうが」 きっぱり。 「………」 そうだ、こいつはこういう奴だ。 がっくり。 聞仲は心の底から力が抜けていくのを感じた。 だが飛虎はそんな彼に全く構わずに話を続ける。 「だからって何もしなきゃ帰れねぇじゃねえか。出来る事は全部試してみなきゃな」 そう言いながらページをめくり始める。 飛虎は『初夜の心得』を使った 「………飛虎…」 「いいから相手にすんな」 根は意外と真面目な飛虎はページの隅から隅までじっくりと読み進めていたが、やがて暗い顔をして本を閉じた。 が、その途端。 またしても不吉な音が聞こえてきた。 「て…てくにっく?……テクニックとは何だ!」 「聞仲…これ、読んでみろよ」 「いらぬわ!」 「いいから読んでみろよ!」 不機嫌な飛虎の様子に流石の聞仲も大人しくなり、渋々ながらも本を開いた。 聞仲は『初夜の心得』を使った 「…飛虎…」 「相手にすんな」 飛虎は相変わらず不機嫌な様子を崩さない。 仕方なくその本を読み始めた聞仲が見たものは… 危うく倒れそうになってしまった。 なのに飛虎は容赦がない。 「全部読めよ」 鬼!悪魔!この天然ボケバカまぬけ!! 心の中で思いっきり罵倒しながら、泣く泣くページを捲る。 すると… ここからが本番? 「な、何だ、ほ…本番って…」 と呟いたところで、聞仲は恐ろしい事を思い出してしまった。 確かソフトを借りてきた時、頭を使わなくても出来る簡単なヤツばっかりだと言われていた筈だ。例えば「RPG」とか「格闘ゲーム」とか「シューティング」とか…そうそう、「やってからのお楽しみv」が一本だけ混ざっていると…混ざって……いると……… しーーーーーーーーーん。 という事は、もしやこれが? では今自分の居るこの世界は、その「やってからのお楽しみv」なゲームだと……つまりこれは俗に「エロゲー」と言われているあの世界。 今までの戦いも、あの『忌まわしい結婚式』も全て前戯、いや前座。 クラクラクラッ 思わず遠のきそうになる意識を何とか繋ぎ留めながら、必死に続きを覗き込む。 『満足度』が200を超えるとハッピーエンディングです 制限時間は三時間。時間内にクリアできない時はもう一度最初からやり直しになりますので、頑張って下さい 聞仲は今度こそ気が遠くなった。 しかし薄れゆく意識の中で、再び悪魔のナレーションを聞いてしまった。 聞仲の感度が30上がった 「は、ははは…か、かん…ど。は、はは…」 「聞仲、しっかりしろ!」 ぺしぺしぺしっ ◇◇続◇◇ 不幸聞仲は今日も大ピンチです(笑) 彼が平穏な日常に戻れる日はいつなんでしょうか。 …それで、ですね。次回なんですが…暗転じゃまずいかなぁ。……怒る? いや、一応書いてはいるんだけどね。何かこう、気恥ずかしいというか…(笑) どうするかは、ちょっと考え中です。 |