「私はあの時の事を謝ろうという気は今も涌かない。将軍家のお方を護るのが私のお役目であるのだから」 聞仲の声は静かだった。 遠くから聞こえる波音が部屋に静かに届く。 飛虎は疾うに酔いから醒めていたが、目の前にある不安な美貌を無表情にじっと見上げていた。聞仲は視線を痛いほど感じたが、眼を合わせる勇気がなくてずっと眼を伏せ続けた。 「だが、かけがいの無い人を喪った人の痛みを知らなかったのに平然とお前に殺意を抱いた事は済まないと思っている」 飛虎の眼が見開かれ、それから寂しく笑った。 「良いんだよ、聞仲。もう気にするな。今更何を言ってもあの時の出来事が消えるわけじゃない。そうだろう?」 「だけど、お前の傷は」 「良いんだよ、もう」 暖かく大きな手が聞仲の頬を覆い、親指で動こうとする唇を塞ぐ。 二人は互いの目を見ながら次第にその距離を縮め、触れる事が当然のように自然に唇を重ねた。 「飛虎…」 口付けの間に掠れた声で聞仲が名を呼ぶ。 「何も言わないでくれ」 飛虎の舌が聞仲の口腔を侵す。脳の芯が痺れる様な心地良さに聞仲は体の力を奪われた。 崩れる聞仲の体を抱きとめ、逆に布団の上に寝かせる。 片手を枕元について上半身を浮かせた飛虎は聞仲の浴衣の帯に手を伸ばした。 「今夜だけは…頼む…」 薄暗い行灯の光が二人の表情を闇に隠す事を許さなかった。聞仲も飛虎もひどく緊張していた。だが二人はその行為を止めようとしない。 しゅっという音を立てて帯が解かれ、飛虎の愛撫が肌の全てに施され、そして聞仲は快楽に理性を蕩かされた。 「ひ…飛虎…はっ、はぁっ」 掠れた嬌声が、飛虎が激しく挿入を繰り返すたびに聞仲の薄く開いた唇から漏れる。 足を開かされ、同性に犯されるという羞恥心は体の奥に隠されていたある箇所を絶えず刺激される快楽に吹き飛ばされてしまった。 怜悧な瞳は熱を帯びて潤み、上気した白い肌は桜色に染まり、長い手足はより飛虎を受け入れようとしっかりと逞しい体に絡みつき、繋がったそこは貪欲に飛虎自身を誘い入れる。 その痴態に飛虎は息を飲みそれは更に昂ぶった。 獣のような声をあげ、飛虎は激しく腰を動かす。汗と互いが流す先走りで聞仲の後腔は女のそこのように滑らかに動き、水音が二人の耳に届いた。 「くそっ…イキそうだっ」 飛虎は吐精感を堪えられなくなると聞仲の両足を腰から引き剥がし、両肩にかける。隙間も無いほど全てを聞仲の体の中に挿入すると、聞仲が耐え切れずに涙を流すのを構わず我武者羅に最奥を犯し、最もそこが強く締め上げたその瞬間に大量の白濁をぶちまけた。 「ああっ」 一際甲高い艶やかな声をあげながら、体内で射精した飛虎の衝撃に耐え切れなくなった聞仲も己の腹の上に白濁を吐き出した。 赤くなった唇は荒い息をし、汗ばんだ体には後だけで達した白濁が撒き散らされ、快楽に浸った陶酔の顔でぼんやりと見上げてくる聞仲壮絶なまでに淫らで美しく、飛虎は衝動的に聞仲の唇を奪う。 二人は唾液を絡ませながら、飛虎のそれが再び聞仲の体内で勢いづき始めているのを感じたが、快楽に全ての思考を捨てた彼らはそれが当然の行為のように受け止めた。 そうして二人の情交は一晩中続き、東の空が白み始める頃になってやっと体力を使い果たし終わった。 |